実績(1) 保護適格性に欠けるとは?
概要
米国特許出願が、「発明の保護適格性を欠く」として庁から拒絶理由通知を受けました。
この「保護適格性」の基準は、当時、裁判で争われていたため、拒絶への対応策を講じることが困難でした。
しかしYAでは、庁が暫定基準を公表するという情報を素早くキャッチしていました。
そこで、米国弁護士と連携して、公表直後の暫定基準に基づくタイムリーな対応策を提案することができました。
背景
平成22年6月、米連邦最高裁のBilsiki(ビルスキー)判決によって、方法クレームに係る発明の「保護適格性」の基準が定められました。
Bilski事件は、ビジネスモデル特許を取り扱う米国の弁護士の間では、下級審判決の頃(2008年10月)から盛んに議論されていました。
当時弊所を訪問される米国弁護士は、Bikski事件を極めて重大なトピックスとしてよく紹介してくれたものでした
しかし、日本では既にコンピュータ・ソフトウェア関連発明の審査基準が整備されていました。
そのため、自国の審査基準に準拠した特許出願を基礎として米国出願をしている多くの日本の実務家にとって「保護適格性」の基準の閾値が低い米国の事例は対岸の火事に過ぎない感がありました。
E社様からのご依頼
E社は、機械の制御に関する発明を米国出願していました。
この制御の方法クレームが「何れの工程も、特定の『機械』とリンクしておらず、特定の物を『変換』していないため、特許の保護対象としての要件を充足しない」として拒絶理由通知を受けたのです。
確かに、問題の方法クレームは、その範囲が最大限に広くなるように読めば、人間の行為と解することもできました。
拒絶理由通知を受けた時期は丁度、米連邦最高裁がBilski事件の上告を受理した直後であったため、下級審で示されたが日本の実務家にとって未消化な「機械・変換テスト」がタイミング悪く適用されてしまったことになります。
E社の知財部は、自社の機械制御の発明が、専らビジネスモデル発明に適用されると思っていた「機械・変換テスト」に基づく想定外の拒絶理由を受けたため、これを解消する策として、方法クレームの各工程の主体を具体的に記載する補正(例えば「マイクロプロセッサが…する工程」)しか思いつかなかったのでした。
しかし、これでは各工程の主体を意図的に明示しないことにより技術範囲をより広く記載できたはずの方法クレームの長所が失われることになります。
YAによる解決
弊社(YA)は、Bilski事件の上告受理の直後に、米国特許商標庁から保護適格性に対する暫定基準が公表される情報をキャッチしていました。
そこで、YAは、暫定基準が公表されると直ぐにこれを米国弁護士と共同で検討し、「方法クレームの中核をなす工程において、その主体が明示されていなくても、同工程中に例えば『メモリに格納されたデータを読み出す』等の動作が記載されていれば、同クレームは本来的に『機械』とリンクしていると解される」という具体的指針を見いだしました。
そこでYAは、この指針を応用して反論を構築しました。
その結果、各工程の主体を具体的に記載することなくその範囲を十分に広く維持する補正クレームをご提案することができました。
このご提案はE社の知財部から感謝されました
活用
上記の補正案は、YAの松下が懇意にしている米国弁護士と個人的な質疑応答を通じて見いだしたものでした。
しかしそれまで担当している案件には適用例はなく、他の案件での失敗例、すなわち各工程の主体を明示する補正によって方法クレームの範囲を狭くしてしまった、といった例を聞いていたのみでした。
今回はじめて長年の蓄積を、保護適格性欠如とされた案件に活用することができたのでした。