外国出願する前に 米国の事務所の構成を知っておこう
構成の把握の重要性
「米国の特許事務所を使いこなす」ためにきわめて重要な要件のひとつが、米国の法律事務所の構成、内部の力の関係、指揮系統を知っておくことです。
この構成を把握しておくことによって、どこをどのように攻めれば値引き交渉ができるのか、この点は相手が譲らないだろうが、この角度から話を持って行けば相手の立場もすくわれるだろう、といった判断ができるようになるからです。
構成員と作業の対応
日本でも一部の大手事務所には見られますが、米国ではパートナー型の特許事務所がほとんどです。
これらの事務所では、特許弁護士、弁護士、エージェント、事務員といった4種類の資格で構成されています。
これらの構成員のうちで、誰が、今回の請求書のどの作業を行ったのか、把握しておくことが大切です。
特に明らかな違いは、特許弁護士の仕事と事務員の仕事です。
例えばコピーや郵送作業が誰の担当であるか、は明らかです。
しかし例えば公報の入手といった作業は、内容の理解が必要な段階での収集と、特許番号まで分かっている段階での単なる収集とは担当者が異なるはずです。
最初の出願を依頼する段階で、日本でほとんど書類が完成しているのであれば、出願手続きを特許弁護士が行う必要はないでしょう。
ほとんどが弁護士よりも時間単価の低いエージェント、あるいは事務員が行っているはずです。
しかし、出願の数か月後、数年後に特許庁から拒絶理由通知がきた場合の対応書類の作成、すなわち中間処理となると特許弁護士の出番でしょう。
このような実際の作業に応じた担当者の位置というものは日本でも同じで、想像のつく範囲だから、その作業にふさわしい構成員が作業をしているのか、それが請求書に反映しているか、把握しておかなければなりません。
ただし、担当者と作業の内容が適切な対応関係にあるか否かを把握してもそれだけでは意味がないです。
この対応関係と、先方からの請求書との関係、そして値引き交渉との関係については順に説明してゆきましょう。
年収評価の方法
日本のオーナー事務所では、所長の鶴の一声で昇給やボーナスの査定が決まってしまうところも少なくないようです。
しかし複数のパートナーによって共同経営するところでは、A弁護士の主観だけで決めるわけには行きません。ある程度の第三者の客観的な評価が必要となります。また年功序列を採用していては、若い弁護士は育たない、という問題があります。
そこで客観的な評価でもっとも取り入れやすいやり方、それが売上げに比例した配分です。
そのためには一人ひとりの時間当たりの単価を事前に設定しておかなければならなりません。
例えば1件の中間処理に特許弁護士が2時間、事務員が3時間かかったとすれば、担当者の時間当たりの単価を時間にかければ請求額が出てきます。
米国の事務所で、このようなタイムチャージの制度が採用されていることは誰でも知っているでしょう。
しかし、では貴社が取引している事務所のジョン・ウエイン弁護士の時間当たりの単価を知っているでしょうか?
聞いてみたことがあるでしょうか?
時間単価を聞くことは失礼か?
米国の弁護士に面と向かって「あなたの時間当たりの単価は?」と聞くのは気後れするかもしれませんね。
しかしそんな気遣いはまったく必要がないのです。
なぜか?
ABA(米国弁護士会)の規定で米国の弁護士は単価を聞かれることを前提としており、また聞かれたら応えなければならない義務を明記しているからなのです。
米国では、弁護士はこの義務にしたがってしばしば問い合わせを受けているのですから、特に日本からの問い合わせに対して失礼と感じることはないはずです。
もし相手の弁護士に、「あなたの単価はいくら?」と問い合わせる場合は「弁護士費は適切か?」をご参考に。
根拠条文を示して問い合わせることによって、どんな効果があるか?
先方は回答を出すだけではないないのです。「これはいいかげんな請求はできないぞ」、と思わせるプレッシャー効果も期待できるでしょう。