外国出願する前に 弁護士費用は適切か
回答は来たけれど
前項ではABAの規定にしたがって、弁護士の「時間当たりの単価」を質問することができること、弁護士はこれに応えなければならない義務があること、について説明しました。
しかしそれならば、相手の弁護士が「どうせ1回きりの依頼者だ」というつもりで法外な時間単価を回答してきたらどうでしょう。
先方とするとこう言います。
「問い合わせがあったのだからちゃんと答えました。その単価で計算した請求書にしたがって送金してください。」と。
これでは交渉の切り札が相手に渡ってしまいます。
貴社では「ハイ、時間当たりの単価はよく分りました。請求額のとおりに送金します。」というだけになってしまいそうです。
これでは問い合わせた意味がまったくありません。
リーズナブルな料金
しかしそんな心配はないのです。
弁護士は「リーズナブルな料金を設定しなければならない、」という義務があるからです。
リーズナブルとはもちろん「安い」という意味ではありません。合理的な内容、という意味です。
しかしそんな規定があるとしても、「リーズナブル」ということばは抽象的です。
「うちの事務所ではこの単価がリーズナブルだと考えている。」といわれればそれまでです。
でもそんないいかげんなものでしょうか。そこで根拠となる規定を読んでみましょう。
ABAのProfessional ConductのRULE1.5には「Fees」という項目があります。
そこでは「(a)弁護士の料金はリーズナブルでなければならない」として、リーズナブルに関して次のような規定があります。
「リーズナブル」の具体例
ルール1.5に挙げてある「リーズナブル」とはなにか、その具体例を見てみましょう。
その業務に要求される時間や労働量の程度は?
その業務が含んでいる新たな問題や困難性の程度は?
法的サービスを適切に行うために要求される熟練の程度は?
例えば電気の発明を扱う専門家か?- 可能性の程度は?
もし依頼者にとって明白で、その特別な従業員の受け入れが弁護士による他の従業員を妨げる可能性の程度はどうか? その地域において、似たような法的サービスでは習慣的にどの程度の料金を請求していたか?
例えばいままで依頼していた他の事務所の請求額と比較してどうか?訴訟の結果、獲得した結果の合計金額はいくらか?
クライアントの要求や、その他の事情によって弁護士が負わされた時間的な制限はあるか?
例えば優先権の期限ぎりぎりの事件だったか、十分に余裕があったか?クライアントとの専門家として関係している長さや、両者の関係の性格は?
例えば顧問関係にあるか?
長年多数の案件を引き受けている関係か?
初めての依頼者か?その弁護士の経験や評判はどうか?
法律家や法的サービスの提供者としての能力は?料金は固定したものか、不確定なものか?
例えば事前に「1件5000ドル」と取り決めた受任か?
「リーズナブル」を争った判例
参考までにロイヤーの「請求がリーズナブルか否か」を争った事件について説明しましょう。
ハーバードの教授がある事件について「見解書」の作成を求められました。数行の見解を書いただけで5000ドルの請求が来たのでクライアントは支払いを渋ったわけです。
「わずか5分程度で書ける程度の文章ではないか」と。
交渉が決着しないのでクライアントはその教授を訴えました。ABAの定める「リーズナブル」の定義に反するとの主張だ。
さすが法律の国、50万円程度の争いで最高裁まで行きました。
結論は?
「5000ドルはリーズナブルである」という結論がでました。
理由はこうです。
この教授は長年の経験と多数の論文執筆などの実績を積み上げた結果、実務家からハーバードの教授にまでなりました。
その点から、特別なテーマの研究を続けていない普通の弁護士よりも発言の内容は高く評価されるはず。したがってその見解の価値は、文章の行数で決められるものではない。
そのような背景を持った教授が責任のある回答をしたのだから5000ドルはリーズナブルな要求である、という判断だったのです。
この判決は依頼者側ではなく弁護士側の判断ですが、そのような解釈もある、ということを知っておいた上で値下げ交渉に当たることも必要でしょう。